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月を見て綺麗だねと言ったけど あなたしか見えてなかった

獣になれない私たちが心に突き刺さる話【新垣結衣】

1月21日、日テレ系2018年10月期水曜ドラマ、「獣になれない私たち」(略してけもなれ)が、ギャラクシー2018年12月度月間賞を受賞したことが発表された。
これは、日本の放送文化の質的な向上を願って、テレビやラジオ番組、その関係者に贈られる賞らしい。

 

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引用:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

 

2018年下半期の私は、「獣になれない私たち」を見て、毎週ボロボロ泣いていた。賛否両論あるドラマだったが、わたしは本当に大好きで、放送期間中毎日のように「けもなれ」「けもなれ」「けもなれ」と連呼していた気がする。

「獣になれない私たち」は、本音と本能にフタをして生きる大人たちのラブかもしれないストーリー。登場人物全員が言いたくても言えない、どうしようもない気持ちを抱えながら、現実と向き合って一生懸命人との関係を作っていくドラマである。

恋人との関係や職場での立ち位置など、生きていれば避けられない『人生の苦味』を、クラフトビールの雑味のように味わおうとするドラマだった。新垣結衣松田龍平田中圭黒木華らが演じたキャラクターたちも、性格だけでなく、立ち位置で変わる見え方まで含めて多面的に描かれていて魅力的だ。

引用:ORICON NEWS

これがギャラクシー賞の受賞理由だそうだ。この評価を書いた人が天才なのではないかと思うぐらい、「獣になれない私たち」の魅力を的確に表した評価である。
「こんなかわいそうなガッキー見たくない」とか「好きになれる登場人物がいない」とかめちゃめちゃ言われていたけれど、わたしたちが向き合いたくない現実の嫌な部分を見事に描いていたドラマだったとわたしは思う。

 

あいみょんが歌う主題歌、「今夜このまま」もめちゃめちゃ合っていた。

苦いようで甘いようなこの泡に
くぐらせる想いが弾ける
体は言う事を聞かない
「行かないで」って
走って行ければいいのに

広いようで狭いようなこの場所は
言いたい事も喉に詰まる
体が帰りたいと嘆く
「行かないで」って
叫んでくれる人がいればなぁ

抜け出せない 抜けきれない
よくある話じゃ終われない
簡単に冷める気もないから
とりあえずアレ下さい

とまあ、こんな感じの歌詞なわけだけれども、本当にあいみょんも天才なんじゃないだろうか。わたしはこの歌にもドはまりしてしまって、ドラマ放送中は毎日よく飽きないねと言われるぐらいずっと聞いていた。

何が言いたいかというと、現代を生きるわたしたちには言えないことが多すぎるのである。もっと本能のままに、好きなものを好きだと言って、欲しいものは欲しいと言って、嫌なことは嫌だといえたらどんなにいいか。そんなことを考えながら日々生きている人が多い世の中だから、こんなドラマが生まれるのだろう。

勇気を出して本音を言ってみても、結局上手くは行かない。それならそもそも言わなければ、ニコニコ笑っていれば、幸せっぽく見えるんじゃないか。自分が不幸せだと思いたくないし、他人にそんな風に思われたくない。よく考えたらそこまで不自由なわけでもないし、自分より不幸な人なんてきっともっといるはずなのに、弱音なんて吐いちゃだめだよね?
そんな風に思って生きている人は、一体どれぐらいいるんだろう。

 

特に、新垣結衣演じる主人公・深海晶が「幸せなら手をたたこう」を歌いながら、淡々と仕事をこなしていくシーンは話題となった。

thetv.jp

ECサイトの制作会社で働いている深海晶(新垣結衣)は、仕事が出来すぎるタイプだ。出来すぎるが故に、営業企画で入社したはずなのに、いつのまにか社長秘書業務から教育担当、クライアントへのプレゼン、後輩のミスのカバーまで全てを任されてしまう。

エンジニアの方への気遣いも忘れず、営業のミスで深夜残業が発生した時には、自腹でおにぎりやお茶も買いに行く晶。もちろん、みんなから信頼されてはいるが、それでも社長の怒号は飛び交い、毎日届く鬼のようなLINEに忙殺される始末。

そんな状況の中、恋人の京谷(田中圭)は元カノである朱里(黒木華)を家に居候させ続けている上に、呉羽(菊地凛子)と浮気をしてしまった。

「幸せでキラキラしてる人は違うね~いつまでも無職で何もしない私とは違うよね」
「あなたが持ってる色んなもの、私持ってない。あんたみたいな人大嫌い!」

晶は、朱里と対面した際、こんな言葉を浴びせられた。
こんな晶の苦しい状況が描写された第5話。追いつめられた晶が、「幸せなら手をたたこう」を歌いながら笑顔で淡々と仕事をこなすシーンが数分にわたって続いた。

もちろん、わたしもこのシーンを見ていたが、ただただ恐怖だった。それと同時に、追いつめられるとこうなってしまう気持ちも、少しわかる気がした。
本当に本当に心から辛いとき、人は笑うことしかできない。辛さを自分で自覚することができない。無意識のうちに涙が出てきたらそれはきっと心が限界ってことだ。

 

個人的には、印象に残った回がもう1話ある。
弱った晶と恒星(松田龍平)が一夜を共にしてしまう第9話だ。

第9話で、晶と朱里はこんな会話を交わしている。

晶「恋愛はしばらくいい。相手にすがって、嫌われないように振舞って、嫌だ」

朱里「じゃあ、ずっと一人で生きていくの?」

晶「一人なのかな?今は二人。私と朱里さん。さっきは三人でビールを飲んだ。会社の同僚と一緒のことで喜んで、女同士で千回のハグ。この前は飲み友達と朝までゲームをした。そういう一つ一つを大事にしていったら、生きていけるんじゃないかな?一人じゃない。じゃないかな?」

様々なブログや考察記事を読んでいると、これが現代の女性の価値観であると称賛されている。実際、わたし自身これには共感する部分があるし、その考察もとてもわかるんだけど。わたしは、この後晶と恒星が一夜を共にしてしまう流れが、この価値観への最終的な答えなんじゃないかと思っている。

お互いに傷ついていた晶と恒星。恒星は晶との関係を特別に思っていて、「性別関係なく人間同士でいられるって貴重じゃない?壊すには惜しい」と言っていたけど、結局こうやって男女の関係になってしまい、最終的には恋人になった。

やっぱり人は限りなく一人で、同僚と喜んでも女同士で千回のハグをしても埋められないものがある。だからこうやって、弱っているときに支えてくれる人をどこかで求めてしまうんだろう。

もちろん一人でも生きていけるぐらい強くなろうってわたしだって思っているし、一人じゃないって思って生きていきたいけど、やっぱりそんなにうまくはいかない。

もしかしたら、最初に引用した晶の考えが正しいのかもしれないし、傷ついた晶と恒星が選択した行動も悪いことではないのかもしれない。お互いに全力で愛し合えている恋人がいれば、もはや弱ることもないのかもしれない。何が正解かなんてわからないけど、結局何が正しかったんだろうって考えさせられるような、そんな答えを探す隙を作ってくれているのがこのドラマの面白いところだ。

わたしたちが心の中に抱えているモヤモヤや矛盾を5tapとクラフトビールを通じて、ちょっとおしゃれに非日常的に描いたドラマ。それが、「獣になれない私たち」なのではないだろうか。

社会人1年目。もっと本格的に業務が始まって、日々の仕事に追われるようになったら、わたしもまたこのドラマに救われる日がくるのかもしれない。本当に何度でも見たい久々の神ドラマだった。Huluで配信されているので、見てなかった人はぜひ。

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